Written by Ao Kamisawa.
『奴隷 I 種』
第 75 話  [えん][]なり
 ユウザがよこした忠告の意味は、すぐにわかった。
「うわっ、何だ、これ!」
 身支度のため自室の鏡を覗いた途端、サイファは思わず大声を上げてしまった。
 左の鎖骨の少し上あたりに、花弁のような暗紅色の痣がくっきりと浮かび上がっている。
(これって、もしかして――)
 原因に思い至った瞬間、ユウザの――男の獰猛な唇の感触がまざまざと甦り、肌が火照った。まるで、自分のモノだとでも言いたげな、口づけの痕。
(まさか、わざと……?)
 別れ際の、ユウザのしたり顔が脳裏をかすめた。淡白そうに見えて、案外、独占欲が強いのかも知れない。
「陛下に見られたら、どうすんだよ、あの馬鹿!」
 言ってることと、やってることが真逆じゃないか! と、ぼやきながら、サイファは、困ったような、嬉しいような、相反する感情に戸惑った。
(……独り占めしたい、ってことは、愛されてる、ってこと……だよな?)
 そう思ったら、独りでに顔がにやけた。
(どうしよう?)
 幸せ過ぎて、何だか怖い。
 鏡に映る自分を見ながら、サイファは両手でぺしぺし頬を叩いた。
 幸せだけど、今は浮かれている場合じゃないのだ。ユウザと相思相愛になっても、自分たちが置かれている状況は、何一つ変わっていないのだから。
(とりあえず、着替えよう)
 薄水色の寝間着姿のまま、衣装箪笥を物色するも、なかなか選び出しかねた。それと言うのも、ハシリスから贈られる衣装のほとんどが、襟ぐりの大きく開いた、肌を露出する意匠ばかりだったからだ。
「あ、これならマシかも」
 肩や背中は出るが、前身頃から続いた布を首の後ろで結ぶ型の単衣で、辛うじて痣が隠れそうだった。その藍色の単衣の上に、乳白色の前打合せのない短い上着を羽織る。
「……うん、ギリギリ見えないな」
 もう一度、鏡で良く確かめて、サイファはほっと一息吐いた。次にユウザに会ったら、文句の一つも言ってやらねば。
 そこへ、遠慮がちな合図が響いて、サイファはどきりとした。
(まさか、ユウザ?)
 ついさっき別れたばかりの彼が、訪ねてくるわけがない。わかっているのに、わずかな期待が胸をふくらませる。
「はい」
 冷静さを装い、よそゆき声で応じると――。
「何だ、あんたか」
「何だ、とは、何だ!」
 開いた扉の向こうで、いつぞやと同じような台詞を吐きながら、パティが頬を膨らませている。一丁前に、百合の刺繍が施された秘書官の制服に身を包んで。
「悪かったよ。――で? 何か用?」
 軽くあしらって、サイファは先を促した。
 陛下への謁見の後、ユウザの朝食の給仕が待っているのだ。パティと遊んでやっている暇はない。
「……これ、お前にやる」
 蔑ろにされたと感じてか、パティは拗ねたように口を尖らすなり、握った拳をこちらに向けて突き出してきた。
「何?」
 言われるままに差し出した手に載せられたのは、小さな小さな木彫りの天馬だった。
「わぁ、可愛い!」
 思わず、サイファは歓声を上げた。
 掌にすっぽり収まる程度の大きさながら、悠々と伸ばされた両翼といい、軽やかに躍動する尻尾といい、本物のように精巧に作られている。しかも――。
「この円らな瞳なんて、スゥーラにそっくりじゃないか」
 しげしげと像を見つめながらサイファが呟くと、パティは、そうだろう! と勢いこんで喋りだした。
「オーランブールの小間物屋で見つけて、一目でぴんと来たんだ! これなら、お前も気に入るんじゃないかと思っ――」
 そこまで言ってから、ハッとしたように慌てて口をつぐむ。
 その様子に、サイファは目を細めた。
「あたしのために、わざわざ買ってきてくれたのか?」
「いや、別に……その、あれだ。お爺様に、お土産を買うついでに、たまたま見つけただけだ」
 しどろもどろになりながらも、だから遠慮することないぞ、と、こちらの顔色を窺うような上目遣いになるのが、また可愛らしい。
「ついででも、嬉しいよ」
 微笑ましい気持ちで、サイファはパティの頬に軽く口づけた。
「ありがとう」
 大事にするよ、と、にこりと笑う。
 パティは満足げに頷くと、じゃあな、と片手を上げて、踵を返した。そのまま、急いで廊下を駆けていく。どうやら、これを渡すために、忙しい中、寄り道したらしい。
「頑張れよ、クロエの手足」
 遠ざかる小さな金糸の百合に向かって、サイファは小声で声援を送った。
「え? ユウザの代わりに?」
 モーヴの言葉を受けて、サイファは口に運びかけた匙を汁皿に戻した。
 ユウザの給仕がなくなった代わりに、侍従長との打ち合わせを兼ねた朝食を取っていたところである。思いがけない仕事が舞い込んだ。
「もちろん、私も参りますが、皇太子様付の女官であり、陛下の寵厚い美麗な I 種がお見舞いに参ずれば、向こう様も悪い気はなさらないでしょう」
 今日の午後、ユウザが訪問する予定だったというキリアン・アストリッドは、先々代の楽師の君――即ち宮廷楽師の長だった人で、引退してなお雅楽界に強い影響力を持ち続けている、すごい人なのだとか。そんなお偉いさんとの約束を、いくら急用とは言え、当日に反故にするのだ。出来得る限りの敬意を払わなければ、というモーヴの主張は、ごもっともではあるのだが……。
「でも、皇帝陛下の寵厚い皇太子付の女官って言ったって、しょせんあたし≠セよ?」
 サイファは自分で自分を指さした。これまでの経験から、自分とやんごとなき皇族方との相性が最悪であることは、重々承知していた。己を卑下したい訳ではないが、自分なんぞが行ったところで、歓迎されるとは到底思えない。
「なに、心配には及びません」
 尻込みするサイファに、モーヴは余裕たっぷりの笑顔を見せた。
「キリアン様は、美と芸術を愛する、真の風雅人です。あなたほどの美貌を捨て置けるはずがありません」
 むしろ気に入られ過ぎて、 I 種に、と望まれたらどうしましょうか、などと取り越し苦労を始める始末。
「――とにかく、今日の午後も、あなたの稽古が潰れてくれたのは幸いでした」
「……まぁね」
 ほっとした口調のモーヴとは裏腹に、サイファは吐息交じりにうなずいた。
 晩餐の席で聞いた噂話は、どうやら真のようだった。ヘンシェル・アマン暗殺事件のせいで、歌の稽古どころではなくなってしまったのだろう。エレミナ姫からは、今日も都合が悪くなった、とだけ、律義に中止の連絡をもらっていた。
(これから、どうなるんだろう?)
 エレミナに稽古をつけてもらえなくなった今、ハシリスに命じられた余興は、無かったことにしてもらうしかない。
 できれば、今朝の謁見の際に確認しておきたかったが、よほど忙しかったのか、いつものように一対一での面会は叶わず、他の I 種たちに混じっての朝謁で終わってしまった。
 もしかすると、単に忙しいだけでなく、一連の事件に関して、余計な探りを入れられたくなかったのかもしれない。特に、もう一つの重大事について――。
(本当に、何もかも白紙に戻ればいい)
 やっと手に入れた愛しい男と、芽生えかけた友情を天秤にかけずに済むように。
 皇居から小一時間ほど馬車を走らせ、市街地を抜けると、緑豊かな林野に囲まれた、瀟洒な別荘が見えてきた。
(あたしも、こんな所で暮らせたらなぁ……)
 約束の時間、目的の館の前で馬車を降り、サイファは思わず微笑んだ。
 病で職を辞してから、極端に人付き合いが減ったというキリアン翁の住まいは、理想の隠居生活を絵に描いたようだった。こじんまりとして手入れの行き届いた庭には、色とりどりの小花が咲き乱れ、小鳥たちの楽しげな囀りが、平和な暮らしを象徴しているかのようだ。
 しかし――。
「磨き抜かれた翠玉を愛でるはずが、とんだ石くれが転がり込んで来よったわ」
 来客の報せを受け、右手に杖を、左腕を夫人に支えられながら現れたキリアン・アストリッドは、たっぷり三十秒ほどサイファを凝視したかと思うと、先の台詞をのたまった。
 落胆の色を隠そうともしないばかりか、盛大な嫌味つきで嘆かれて、サイファは密かに拳を握った。
(モーヴ爺さんの嘘つき!)
 やや後方で恭しく控えているモーヴを、わずかに振り返る。思い切り捨て置かれたぞ、と。
「こたびは、せっかくお時間を作っていただきましたのに、急にお訪ねすることが叶わなくなり、主もたいそう遺憾に思うておりました。お許しをいただけるならば、後日、改めてお伺いしたいと申しております」
 サイファの恨みがましい視線など、どこ吹く風のモーヴが、誠に申し訳ございません、と丁寧に詫びると、キリアンは気を取り直したように、うむ、と喉の奥でうなずいて、まぁ、かけるがよい、と杖で座るよう促した。
 確か、心臓が悪いと聞いたが、食も細いのだろう。上品な面差しながら、頬はこけ、目も落ちくぼんでいる。しかし、その足運びや、何気ない手指の動きは雅やかで、往年の舞手の名残が伺える。
「エリス殿から、小康を保っておいでだと伺っておりましたが、この目でお元気なご様子を拝見いたしまして、誠、安堵いたしました」
 主に良い報告ができます、とモーヴがにこやかに口を開くと、キリアンは皮肉めいた口ぶりで否定した。
「何を申すか。近ごろは、何をするのも億劫で、庭に出るのも厭わしいほどだ。……これが、庭いじりが好きゆえ、たまには一緒に散歩でもしてやりたいがの」
 そう言って、召使いに茶の支度を命じている夫人を、横目で見やる。
「あら、旦那様。そのようにお優しいことを考えていらして下さったんですの?」
 急に話を向けられた夫人は、私には何もおっしゃいませんのに、と目を丸くした。
「何が優しいものか。私はもうすぐ、お前を置いて旅立つのだぞ」
 これほど薄情な夫もおるまい、とキリアンは口をへの字にして毒づいた。口は悪いが、それも全て、病気で気が弱くなっていることの表れのようだ。
(素直に、お前が心配なんだ、って言えばいいのに)
 キリアン夫人が、夫の前に茶碗を置こうとして手を滑らせかけたのを、さり気なく支えてやりながら、サイファはそのまま何食わぬ顔で給仕を手伝った。一寸、驚いた顔をした夫人だったが、それから少女のような笑顔になった。夫とは対照的な、素直で愛らしいお婆ちゃんだ。
 しかし、本当は思いやり深いのに、意地の悪い態度で照れ隠しをするキリアン老人が、サイファは嫌いではない。むしろ、その不器用さを可愛いとさえ思う。
(あいつも、将来、こんな風になりそうだな)
 いつも自分をからかい、翻弄してくる誰かさんと似ている、と思いつつ、サイファは借りてきた猫のように、黙って老人たちの話に耳を傾けた。
 一しきりユウザの近況や宮廷の噂話に花を咲かせていたと思ったら、ふいにキリアンの目がこちらに向けられた。
「ところで、そこな石くれは、どこで拾うて参った?」
 肘掛け椅子にすっぽりと納まり、体重を杖に預けるようにして前のめりになったキリアンは、モーヴに向けて問うた。国産とは思えぬが、とサイファを見据えたまま。
「紛うことなき国産です」
 この銀髪のせいで、よく言われることではあったが、モーヴが答えるより先に、むっとして返すと、雅楽界の重鎮は、ふん、と鼻で笑った。
「どうやら、山から掘り出されたばかりで、行儀がなっておらんようだの」
「まったく、仰せの通りで」
 モーヴが如在なく相槌を打ちつつ、さらりとつけ足す。
「されど、この野趣が皇帝陛下のお気に召されたようで、下手に泥を落としかねておりまする」
 老執事の絶妙な取り繕いように、キリアンの瞳がにわかに興をさかしたように輝いた。
「ほほう。マティナ姫の趣味も、ずいぶん変わったの。昔はごてごてと飾り立てるのがお好きであったが」
 同世代の気軽さからなのか、一国の主であるハシリスを姫≠ニ呼び、悪趣味は相変わらずだが、などと平然と評している。
「……それにしても、マティナ姫の戯れに飼われているのはわかるが、なぜ、これをスゥオル・ユウザリウスの傍仕えに?」
 まさかユウザ殿を骨抜きにするほどの床上手か? と意外そうに問われ、さすがに頬が引き攣った。
「そんな訳――」
 あるか、この助平爺! という喉元まで出かかった罵声は、モーヴの強引な話題転換によってかき消される。
「あぁ、そうそう! キリアン様は、歌舞音曲の達人であらせられます。せっかくですから、昨今の特訓の成果を見ていただいては?」
「はぁ!?」
「特訓?」
 サイファの頓狂な声と、キリアンの訝しむ声が、見事な二重奏を奏でる。
「何言ってんだよ、モーヴ爺さん! あれは、極秘だって言ったろ!」
 慌ててモーヴに詰め寄り、ひそひそ耳打ちするも、キリアンの目は、珍しい玩具を見つけた子供のごとく生き生きしだした。
「極秘の特訓とは、何やら面白そうではないか。歌か? 舞か?」
 よほど、娯楽に飢えているのだろうか。手ぶらで来たのだから楽器ではあるまい、などと推理しながら、椅子に掛けたまま、なぜか細い手足をぶらぶら振って、準備運動を始めた。
「さぁ、いつでも良いぞ、石くれ」
 そう言って、不敵な笑みを浮かべる。始めよ、と。
 なぜ、キリアン翁が準備運動などを始めたのか。その理由は、五分と経たない内に判明した。
「駄目だ、駄目だ、この石くれ! 三小節目の転調が、てんでなっておらん。喉だけで歌おうとするから、うまく声が裏返らんのだ! 全身を使え、全身を!」
 そう言って、キリアンはぴょんっと跳び上がって、サイファの額を指で弾いた。
「痛っ!」
 いい加減、同じ所を小突かれ過ぎて、おでこが陥没してしまいそうだ。
 腐っても鯛――と言っては失礼だが、この体の一体どこが、長年病に侵されてきたのか、と疑いたくなるほど、その歌声も、足腰も力強かった。キリアンの小柄な体が跳んだり跳ねたり、時に回ったりしながら、サイファの歌声を巧みに矯正していく。言葉よりも、体が先に動いてしまうといった風情で、正に全身全霊をかけた熱血指導と言える。
 とは言え――。
「ほれ、石くれ。もう一度!」
「ほーい……」
 いい加減疲れ始めて、半ばぐったりしながら返すと、老人の眼差しが鋭く細められた。
「ほう? そうか、そうか。一度では物足りんか。では、もう十遍……」
「わー、もう、じゅうぶんご指南いただき、ありがとうございました!」
 サイファは、ぶんぶんと大きく頭を振った。あれから小一時間、休憩もなしに歌っては小突かれ続けているのだ。そろそろ、限界だった。
「ふん! これぐらいで音を上げおって。五歳の頃のユウザ殿の方が、よほど根性が据わっておったぞ」
 相変わらずの毒言だったが、キリアンの顔は晴れやかで、最初に会った時の鬱々とした表情はすっかり消え失せていた。
「まぁ、よい。例え、そこそこ名の知れた楽人であっても、極上の翠玉と比べられれば、ほとんどが石くれのようなものよ」
 そう言って、ほっほっと、愉しげに笑ってから、初めてサイファを見た時とは全く違う優しい眼差しが向けられた。
(それって、ちょっとは認めてくれた……ってことかな?)
 ひねくれた老人の、ひねくれ過ぎた評価に微苦笑を浮かべていると、キリアンが、石くれ、と呼びかけてきたと思いきや。
「石くれ……いや、皇帝陛下に免じて、お主に相応しい呼び名をやろう」
 すぐに何やら思い巡らして――。
「サイファ」
 そう、呼んだ。今日から、そう名乗るが良い、と。
 一瞬、サイファはもちろん、モーヴでさえもきょとんとして黙りこんだ。キリアンだけが、独り悦に入っている。
「あの……あたしは、生まれた時から、ずっとサイファなんだけど?」
 この老人は、体ばかりか頭まで気の毒なことになっているのだろうか? と、躊躇いがちに口を開くと、今度はキリアンがきょとんとする番だった。
「何だと? お主の名がサイファ≠セと?」
 お主、やはり国産ではなかろう、と老翁はいぶかるように眉を寄せた。
 サイファ≠ヘ、遥か昔――今は滅んだ異国の言葉で淡青色≠意味する語だ、と。
 淡青色――。
 まるで、その言葉が鍵ででもあったかのように、急激に記憶の扉が開け放たれた。
 あれは、ラヴィが生まれたばかりの頃だった。弟の名前の由来を聞いて……。
『ねぇ、私の名前の由来は?』
『あなたが大人になったら、教えてあげる』
 優しい、母の声。悪戯っぽく片目を瞑り、笑いながら――。
『あなたの瞳は、本当に綺麗な淡青色ね。淡青色は……では……を意味するのよ』
 何処では? 何を意味する?
 確かに聞いた気がするのに、肝心なところだけが思い出せない。
「――ファ! サイファ!」
 どうしました? と、心配そうにモーヴに顔をのぞきこまれ、ハッと我に返る。
「ううん、何でも……」
 何でもない、と言おうとして、体が傾いだ。急な眩暈に襲われて、肘掛けに縋りつく。
「こりゃ、いかん! おい、医者を呼んで参れ!」
 誰よりも慌てふためいたキリアンが、召使いに医者を呼びに行かせた。
「大丈夫……ちょっとふらついただけだから」
 モーヴに訴えると、またしてもキリアンが頑然と首を振った。
「小さな不調を侮ってはいかん!」
 自身の経験と照らし合わせたものか、どんな大病が隠されているやもしれん、ときっぱり言い切って、水だ、気付け薬だ、とサイファのために色々と用意させてくれた。
 キリアンによって、すっかり重病人認定されたサイファは、それから十数分後、慌てて呼びつけられたキリアンのかかりつけ医によって、特に異常はない、と結論づけられた。
「何と人騒がせな!」
 一番大騒ぎしたのは爺さん、あんただろう、というツッコミは胸にしまって、サイファは神妙に迷惑を詫びた。
「お見舞いに来たのに、こんな騒ぎになって、本当にごめんなさい」
 深々と頭を下げると、またしても、キリアンは鼻で笑った。
「まったくだ。いい若い者が、年寄りに心配をかけるでない」
 罰として、また顔を見せに来い、と言って。
「え?」
 ビックリして顔を上げたサイファと、老人の気恥ずかしげな目が合う。
「お主の歌が、まだまだだからだ。例え、一時であっても、私が指導した者が物笑いの種にでもなれば、師である私の恥になるからの」
「でも……」
「それに、これが、よく茶飲み友達が欲しいとこぼすでな」
 先ほどの、夫人とサイファの何気ないやりとりを見ていたのだろう。顎をしゃくって夫人を指す。
「まぁ、旦那様ったら! この歳で、あなたみたいに若くて可愛い友達ができるなんて、嬉しいわ」
 キリアン翁の提案を、夫人はたいそう喜んでくれた。今度はいつ来られるの? と、にこにこ笑う。
「……私で良ければ、いつでも」
 サイファは小さく笑って、うなずいた。
 子供のいない、老夫婦。
 どんなに仲睦まじくても、やがて訪れる老衰と永遠の別離を悲観して、心乱される日もあるのだろう。
 不思議な偶然が幾重にも重なって訪れた今日の出会いが、自分にとっても、彼らにとっても、良い縁となるように、サイファは願った。
To be continued.
 
- 2019.12.22 -

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