Written by Ao Kamisawa.
『奴隷 I 種』
第 49 話  邂逅[かいこう]
 フラウ城は、異様なまでの静寂に包まれていた。
 現皇太子、アグディル・ノースが危篤状態の今、夜毎の晩餐会を始め、ありとあらゆる宮廷行事が自粛されているという。
 峠は、今夜――。
 そんな噂が囁かれる中、サイファ達一行は都に帰り着いた。
「お帰りなさいませ、ユウザ様!」
 城内に入ると、帝都防衛隊長のナザル・ベークが、ユウザに抱きつかんばかりの勢いで出迎えた。
「今、戻った」
 しかし、当のユウザは極めてあっさり受け流すと、旅装も解かぬまま、謁見の間へと向かった。本音としては、真っ先に父親の元へ駆けつけたいところであろうに……。
 そんな彼の勤勉さに微かな憐れみを覚えながら、サイファも続いた。
 後には、意気揚々と出迎えた主人に袖にされ、べっこりと凹んだナザルだけが残された。
「二人とも、よくぞ無事に戻って来てくれました」
 今回の件で心労が絶えないのだろう。ハシリスの顔は、いつもの華やいだ溌剌さが影をひそめ、酷く憔悴して見えた。
「道中、何か変わったことはありませんでしたか?」
「いえ、特には」
 皇帝の問いに、ユウザは即答した。
 余計な心配をさせたくないという配慮なのか、言う必要もないと思ったのか、二度にわたる襲撃は変わったこと≠フ部類には入らないらしい。
 サイファは、是非とも陛下に報告して、ユウザにも警備をつけて貰うべきだと思ったが、本人が黙っている事に口を出すのは躊躇われた。
「そなたも、既に承知しているとは思いますが――」
 沈鬱な表情で前置きをしてから、ハシリスは今回のアグディルの事件の詳細を語った。
 サイファにとっては初耳だったが、隣のユウザの顔には全く動揺の色がなかった。一足先にカレナ城へと戻ったクロエの口から、あらかじめ事のあらましを聞いていたようである。
「まずは、アグディルの様子を見に行くと良いでしょう。その後で……」
 言いさして、ハシリスは改まったように姿勢を正した。折り入って、そなたに話があります、と。
「承知いたしました」
 深く一礼すると、ユウザは暇を告げ、踵を返した。サイファも、慌ててお辞儀をし、彼の後を小走りで追う。
「お前は、来なくても良いぞ」
 廊下を歩きながら、ユウザはこちらを振り返りもせずに言った。長旅で疲れたろう? と、気遣う言葉は忘れずに。
「そんな事ない。あたしも行く」
 暗に、来るなと言われたような気がしたが、サイファは気づかぬふりをした。
 それに対して、ユウザは、そうか、とだけ応え、あとは無言で歩き続けた。
 こうして、何度、その背中を追いかけただろう。
 カレナ城は、異様なまでの喧騒に包まれていた。
 アグディルの容態が少しでも快方に向かうよう、加持祈祷を始め、ありとあらゆる医療行為が試されているという。
 峠は、今夜――。
 しかし、フラウ城の人々とは違い、カレナ城の人達は少しも希望を捨てていない。その筆頭が、この人だった。
「案外、早く着きましたね」
 アグディルの寝所に入ると、枕元にかけていた貴婦人が微笑みを浮かべて立ち上がった。
 綺麗に結い上げた艶やかな黒髪、華奢でありながらも凛と伸びた背筋。そして、深い森の樹木を思わせる、緑色の瞳――。
 皇太子妃、セシリア・イレイズである。
 美しく聡明な面立ちはユウザにそっくり――というより、彼がセシリアに瓜二つと言うべきであろう。とにかく、二人が血を分けた親子であることは疑いようがない。
 サイファは、そっと右手の中指に輝く水華石に触れた。
 色々あったが、結局、手元に残ったこの石は、期せずして自分の身代わり石となってくれたのだと、今では思っている。それを授けてくれたユウザの母に礼を述べたいという願いは忘れていなかったが、まさか、こんな形で[まみ]えることになろうとは、夢にも思わなかった。
「父上のお加減は、いかがです?」
 帰還の挨拶もそこそこに、ユウザは横たわるアグディルの顔を覗き込んだ。その横で、セシリアが静かに[かぶり]を振る。
「芳しくはありません。でも――」
 言いながら、彼女は皇太子の頬に指を伸ばした。
「殿下が独り闘い続けていらっしゃるのに、見守る我々が諦める訳には参りませぬ」
 アグディルの額には、怪我からくる高熱で玉のような汗が浮かび、時折もれる痛々しい呻き声は、セシリアの言うように、彼自身が必死に闘っている証のようだった。
【**、***、*************……】
 神聖語で何やら呟くと、ユウザは枕頭に座して、父親の手を両手で握った。何も言わずに父を見つめる眼差しが、幼気[いたいけ]な幼子のように澄み渡っている。
 助かってほしいと、切実に思った。
 皇太子自身の為にというより、目の前の小さき者の為に――。
 そっと、祈りの形に手を組み合わせた時だった。
「そなたが、サイファ・テイラントですね?」
「あ、はいっ!」
 思いがけず声をかけられ、自分でも驚く程の大声が出てしまった。サイファは、あたふたと口を押さえ、問いかけの主――セシリアに顔を向けた。
「こたびは、せっかくの里帰りの邪魔をしてしまって、気の毒なことをしました」
 手近にあった椅子を引き寄せ、彼女に勧めながら、セシリアはユウザの傍に腰掛けた。こんな事がなければ、もっとゆっくりしてこられたのでしょうに、と美しい眉を寄せる。
「いえ、そんな事ありません」
「ご家族は、皆、息災でしたか?」
「はい、とても」
「それは何よりでしたね」
 にっこりと、セシリアが笑った。まるで、大輪の牡丹が咲いたようだった。
 高貴な身分にもかかわらず、何のわだかまりもなく話しかけてくれる皇太子妃の気さくさに、驚きと好感の両方を抱きつつも、サイファは不思議な既視感を覚えた。
(誰かに似てるような気がする……)
 ユウザ以外の、誰かに。
 その時、既に秘書官の服装に着替えたクロエが現れた。濃紺の長衣に、金糸で百合の刺繍が施されている。
「妃殿下、お客様がお見えです」
 颯爽とした仕草で一礼し、来客を告げる。
 こうして改めて見ると、旅の間には気にも留めなかったが、彼がとても優雅な顔立ちをしているのが解った。とても、狼藉者どもを相手に長剣を振るっていた人間とは思えない。伏せた瞳の、何と睫の長いことか――。
 ぼんやりと、そんな事を考えていると、顔を上げたクロエと目が合った。てっきり、無表情で逸らされると思ったのに、彼は微かに目を細め、唇を笑みの形に持ち上げた。
 無事、帝都に戻ることが出来て気持ちが穏やかになったのか、それとも、共に旅した者として、少しは親しみが湧いたのか、サイファにとっては意外な反応だった。そして同時に、見る者の心を騒がせる、ひどく魅惑的な笑顔だと思った。
 サイファは、会釈と頷きの中間のような半端な角度で、ぎこちなく頭を下げた。あからさまに笑顔を返すのは、この場には相応しくないような気がした。
 程なくして、正装した男女の一団が遠慮がちに入室してきた。細身で、いかにも好々爺といった感じの老紳士と、ふっくらとして、朗らかな印象を受ける老婦人。恐らく夫婦だろう。そして、彼らの付き添いといった風情の、黒い面紗[ベール]を被った女性の三人だった。
(誰だろう?)
 何気なく視線を向けた時、サイファは、大きく目を見開いた。最後に入ってきた女性に、見覚えがあった。
(ミリア!?)
 喉まで出かかった声を無理やり呑み込み、まじまじと女を見つめる。
 旅立つ前、ミリア・アンバスの名を騙り、サイファの部屋を訪れた謎の女。顔を覆う面紗[ベール]から僅かに覗く口元が、暁の光の下で微笑んだ細い顎と重なった。
(間違いない)
 緊張と興奮が、一気に押し寄せる。彼女が何者なのか、確かめなければならない。
「良く参られました」
 一団に向かって、セシリアは弱々しい笑みを浮かべた。どうしたことか、先ほどまでの気丈さが嘘のように、今にも泣き出しそうな顔に変わっていた。
「この度の殿下の御受難、この老体が代われるものならば代わって差し上げたいと、何度、神にお祈り申し上げた事でしょう」
 老爺が苦渋に満ちた表情で述べた。その調子は、いかにも心がこもっており、清らかな優しさを帯びていた。
 傍らに控えた老女[おうな]と女が、相槌を打つように頷く。
「そのような事、願ったりなさらないで下さい」
 老人の言葉に応じたのは、セシリアではなくユウザだった。やおら立ち上がり、柔らかな微笑を浮かべる。
 その表情を見て、サイファは、おや? と首をひねった。日ごろから、老人と子供には無条件に優しく接するユウザであったが、いつもの、相手を守り、慈しむような笑顔とは微妙に異なっている気がした。保護者というよりは、庇護される側に近い。
 それもそのはず、彼の次の台詞で得心がいった。
「お爺様は、私のたった一人のお爺様。父上のお命と比べる事など、どうしてできましょう?」
 見舞い客の正体は、ユウザの母方の親族――宮人の大家、イレイズ家の人々だったのだ。では、あの女性も……?
 俯き、そっと控えている女の様子を、サイファは用心深く見守った。
 面紗[ベール]に隠された顔には、どんな表情が浮かんでいるのか?
 出来ることならば、もう一度、女と言葉を交わしたい。彼女の口から、納得の行く弁明を聞きたい。そのためには、どうしたら良いのだろう?
 皇太子の見舞いという当初の目的も上の空で、サイファは言いようのない焦燥感に包まれた。ユウザは、この女性の正体を知っているのだろうか?
 そんな彼女の内憂など露知らず、ユウザは笑顔のまま、あまり私と母上を困らせないで下さい、と軽い調子で窘めて、さっきまで自分が座っていた椅子を祖父母に譲った。彼を見つめ返す老婦人の瞳には、隠し切れない孫への愛情が溢れている。
「皇太孫殿下」
 その様子を見ていたセシリアが、眉を顰めた。目でユウザを戒めているのは判ったが、彼が一体、何をしたというのか?
「母上、そう目くじらを立てられますな。臣下の礼は重んじますが、肉親の情は如何ともしがたいもの。陛下の御心に反する程の大罪ではございますまい」
 物静かに、しかし、揺るぎのない口調で、ユウザは反論した。
 身分の差。
 例え親でも、皇族に嫁した娘にとっては、自分より身分の低い者として相対しなければならない。その逆もまた然り。赤の他人である奴隷に情けをかけるのとは、訳が違う。
 嫁として姑を立てなければならないセシリアの立場は、その低い出自ゆえに、息子のユウザの苦労を遥かに凌ぐと思われた。皇家の中で唯一人、一滴も神の血の混じらない、正真正銘の人間≠ネのだから――。
 何て、窮屈な世界だろう。
 誰にともなく怒りが込み上げてきて、サイファは我知らず拳を握り締めた。
「お話し中、失礼いたします。妃殿下、そろそろ夕食のお時間でございますが」
 折り良く、クロエが場の空気をかき混ぜた。
「もう、そんな時間か」
 またしても、セシリアより早く反応したユウザが、イレイズ家の人々を見渡した。
「せっかくいらしたのです。どうぞ、ご一緒に。――ねぇ、母上?」
 最後に、首をひねってセシリアを仰ぐ。
「それも、そうですね」
 表向きの言葉とは裏腹に、皇太子妃は目元を和ませた。いつになく強引なユウザの言動は、母親のために既成事実を作ろうとしているようにも見える。
「誠に恐れ入りますが、私は、もうお暇しなくてはなりませぬ」
 二人の遣り取りに遠慮がちに口を挟んだのは、意外にも、あの女性だった。控えめな様子から、てっきり、イレイズ家の侍女かと思っていたのだが――。
「まぁ、残念ですこと……」
 セシリアの顔に、はっきりとした落胆が広がる。
「もったいのうございます」
 そう返した女の口元に、あの日と同じ微笑が生まれた。その瞬間、サイファは意を決した。
「あの! あたしも、そろそろ失礼いたします」
「何を言うか。お前の席も用意してやる」
 彼女の思惑など知る由もないユウザが、すかさず邪魔をしてくれる。変な遠慮をするな、と。
「いや、でも……」
 サイファは思わず眉根を寄せた。今、彼女と一緒に退席すれば、一瞬でも、二人きりで言葉を交わせるかも知れないのだ。
「もしや、体の具合でも悪いのではありませぬか?」
 顔をしかめたサイファを見て、セシリアが的外れな助け舟を出してくれた。
「あ、はい。実は、少し疲れが出たみたいで……」
 これ幸いと、もっともらしく額に手の甲を宛がい、俯いてみせる。
「ならば、私もお暇を――」
「いや、いい! あんたこそ、久しぶりの一家団欒なんだから、ゆっくり、のんびりしてきなよ!」
 ユウザの申し出を力いっぱい拒否すると、サイファは、そそくさと一礼し、女より先に部屋を辞した。
 かなり無礼な退場の仕方だったとは思うが、今は、そんな事を気にしている場合ではない。
 サイファは背筋を伸ばすと、廊下を急いだ。
 黒曜石の廊下に、硬い足音が響く。
 玄関広間は、控えめな橙色に照らし出されていた。夕食時になり、先ほどまでの騒々しさは、城の奥まった食堂へと移っている。
「――待ってたよ」
 突然声をかけられた女は、ギクリとしたように歩みを止めた。しかし、柱の陰から滲み出るように姿を現したサイファを見て、明らかに安堵したようだった。
「ああ、驚いた。[わたくし]に、どんな御用かしら?」
 おっとりした口調で言いながら、ミリアを騙った女は小首を傾げた。
「どんなも何も、決まってるだろう? あたしを騙して、一体、何を企んでるのか聞かせてもらおうじゃないか」
 サイファはきっと眉を寄せ、女を見据えた。どんな表情の変化も見逃すまいと、必死だった。
 すると、女は顔を伏せ、クスリと笑った。そして、小さく肩を揺らしたかと思うと、やがて堪え切れないとばかりに腹を抱えて笑い出した。
「……ダメよ、いくら何でも、これはいただけない」
 一頻り笑った後、彼女は顔を上げた。
「こうも真正面から切りかかっては、討てる敵にも返り討ちにされてしまうわ」
 正直過ぎるのも問題ね、と言いながら、女はおもむろに面紗[ベール]を脱いだ。現れた顔を見て、サイファは目を瞠った。
「皇太子妃殿下!?」
 思わず叫ぶと、女は唇に指を当て、静かにするよう仕草で示しながら、にっこり笑った。
「違いますよ。良く御覧なさい」
「?」
 ……言われてみれば、確かに良く似ているけれど、目元、口元など、微妙に違う……というか、セシリアより老けて見える。
「私は、エリス・ベーク」
 セシリア妃殿下の実の姉です。
「何だって、ミリアの名前を騙ったりしたんだい? 初めから、ユウザの伯母さんだって名乗ってくれたら良かったのに」
 立ち話も何だからと、サイファが連れてこられたのは、フラウ城とカレナ城のほぼ中間地点にあたるベーク邸――エリスの自宅であった。
 夫であり、書記官を務めているアラン・ベークが帰宅するまでの短い時間しか取れないが、という条件つきで、彼女は話をしようと言った。
「馬鹿ねぇ。そんな事、言える訳がないじゃないの」
 一通り、お茶の支度を終え、サイファの向かいに腰掛けながら、エリスは溜め息を吐いた。
「いいこと? あの日、私は貴方がユウザ様のお妃候補に相応しい人間か否か、試しに行ったのですよ? 最初から正体を明かす訳にはいかないでしょう」
「は!? お妃候補!?」
 さらりと告げられた真相に、飲みかけた紅茶を危うく噴きそうになった。ケホケホ咳き込みながら、眉をひそめる。変な冗談やめてくれよ、と。
「あら、冗談などではないわ。あの時、ツェラケディアの話をしたのは、何のためだと思っているのです? 貴方に候補としての自覚を促すためですわ」
「ちょっと待ってくれ! それは何の企みだ? 誰が、あたしなんかを……」
 ユウザの妃にしようなどと、馬鹿げたことを言い出したのか?
 後に続く言葉を、サイファは飲み込んだ。自分で口にするのも憚られるほど、酷く惨めな気持ちになった。
 いくら、皇帝の奴隷≠ニいう最高の栄誉≠与えられた身でも、所詮、一介の猟師である。皇族の――ましてや直系の皇子に嫁ぐなんて、夢見ることすら滑稽だ。
 第一、自分はユウザに愛されてなどいない。それどころか、人材として必要とされているかも怪しいところである。
 身分ある者同士の政略結婚であれば未だしも、自分のような庶民が、愛情すら得られずに結ばれたなら、百害あって一利なし。誰にとっても、不幸でしかないではないか。
 そんなサイファの心情を慮ってか、エリスは優しい顔になった。セシリアに良く似た、美しい微笑み。
「確かに、平民出の奴隷が皇妃[おうひ]になるなど、夢物語と嗤われても仕方がありません。でもね、貴方がユウザ様の助けとなってくれる事を望んでいるのは、人間の身≠ナありながら神≠ノ娶られた、セシリアなのです」
 皇宮にやってきた、型破りな奴隷娘。連日の逃亡未遂に否応なく振り回されている息子の様子を聞き、セシリアは初め、心を痛めていたという。
 しかし、フラウ城から洩れ聞こえてくるサイファの悪い噂の数々を聞く内に、逆に好意を抱くようになった。
 かつて自分も辛酸を舐めた皇宮で、己を曲げることなく真っ直ぐに生きていられる彼女なら、皇室の――延いては、この国の悪しき慣習をも打ち破ってくれるのではないか――と。
「もちろん、私たちが勝手に貴方を候補者と見なしているだけで、それを貴方に強要するつもりはないの。でも、もし、貴方自身がユウザ様の妃の座を望むのであれば、私たちは尽力を惜しみません」
 きっぱりと、エリスは言い切った。とても洒落には見えない、真剣な表情で。
「はあ……」
 サイファは曖昧に頷いた。あまりにも思いがけない話で、力を貸すと言われても、何の感慨も湧いてこない。
「とにかく、ユウザ様は[いま]だ独り身。アグディル様が御危篤となられている今、良くも悪しくも、あの御方への注目が集まっているのです。殿下を利用しようとする者、亡き者にしようとする者――」
「それなら、もう始まってるよ」
 ふいに現実に引き戻され、サイファは、エリスの言葉を遮った。お妃問題よりも、こちらの方が余っ程、大事だ。
「今朝も、変な奴らに襲われた。幸い怪我はなかったけど――」
「それは真ですか!?」
 今度は、エリスがサイファの言葉を遮る。
「うん。あいつに聞いても、誰が犯人かは判らないって言ってたけどね」
「……そうですか」
 呟いて、彼女は物思いに耽ったように、遠い目をした。しかし、それも束の間のことで。
「サイファ、貴方に一つ、お願いしたい事があります」
 そう言って、こちらを見据えた彼女の瞳には、絶対に拒否する事を許さない、強い意志の光が宿っていた。
- 2009.03.26 -
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